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最高裁判所第三小法廷 昭和30年(あ)2629号 判決

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人植木昇の上告趣意第一点について。

現行刑事訴訟法によれば、いわゆる伝聞証拠は、それが人証であると書証であるとを問わず原則として証拠能力なく、ただ刑訴三二一条乃至三二八条に規定する要件を満たしたものに限り、例外として証拠能力を有するのである。そして、刑訴三二一条一項二号の検察官の面前における供述を録取した書面(以下供述調書という)には、要件の一つとして供述者の署名若しくは押印のあることが挙げられているのに、右書面の謄本はかかる要件を欠くのであるから、刑訴三二一条一項二号の書面として証拠調を請求するには、供述調書の原本を提出することを要し、その謄本を原本に代えて提出することは原則として許されないものと解しなければならない(このことは、証拠調を終った証拠書類を裁判所に提出する場合に、裁判所の許可を得て原本に代えその謄本を提出することができると規定した刑訴三一〇条からも窺われる)。ただ本件において、検察官が第一審第一〇回公判で塩山寿の検察官に対する第五、第六回供述調書の謄本を刑訴三二一条一項二号に該当する書面として証拠調を請求したところ、弁護人は、右書面は供述調書の謄本であり刑訴三二一条一項二号の書面ではないので、謄本そのものにより証拠調を請求することには異議があると述べると共にこの謄本についてその原本の存在並びにその成立は認めると述べたことも記録上明らかである。謄本による証拠調の請求につき弁護人から異議のあった以上、原本によって証拠調の請求をするのが原則であることは前段に説明したところから当然のことであるが、本件において弁護人は謄本につき原本の存在並びにその成立を認めると述べており、原本自体を法廷に顕出しなければ証拠調の目的を達し難い理由等についてはなんら陳述していないのであるから、かかる場合には謄本自体に原本に準ずる証拠能力を認めてこれについて証拠調の請求並びに証拠調をすることも法の許容するところと解するを相当とする。それ故、原判決の維持した第一審判決が検察官に対する被告人の供述調書の自白を右塩山寿の供述調書謄本によって補強したことは相当であって、所論のように被告人の自白のみで有罪とした違法はないから、所論憲法三八条三項及び刑訴三一九条二項違反の主張は、その前提を欠き理由がない。

同第二点について。

所論中には違憲の語があるけれども、その実情は量刑不当の主張に帰するので、適法な上告理由とならない。

また記録を調べても刑訴四一一条を適用すべきものとは認められない。

よって同四一四条、三九六条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 小林俊三 裁判官 本村善太郎 裁判官 垂水克己)

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